実績紹介

生成AIを活用した新サービスをスピーディに実用化~IxAプログラム参加から本格開発までの道のりとは?

株式会社梓設計様

(左から)NRIネットコム株式会社 クラウドテクニカルセンター 山田輝明、クラウド事業推進部 越川徹也、株式会社梓設計 BIM戦略室 副室長 松澤亮様、株式会社梓設計 アーキテクト部門 AX-team 大阪直也様

生成AIの活用は、昨今もっとも注目されている課題の一つです。
日本国内の数々の空港を手掛けることで知られる梓設計様では、AWSが提供するIxAプログラム(*)を活用し、生成AIで自社の課題解決を大きく前進させました。

その取り組みについて、詳しくお話を伺いました。

<お話を伺った方>

株式会社梓設計 BIM戦略室 副室長 松澤亮様
株式会社梓設計 アーキテクト部門 AX-team 大阪直也様

発端はIxAプログラムへの参加

越川:梓設計様は、まずAWSが提供するIxAプログラムに参加頂き、その後当社とのPoC(Proof of Concept)を経て、サービスの本格開発まで、スピーディーにプロジェクトを進めてこられました。

このスピード感で、サービスの有用性を精査し本格開発に漕ぎつけることはなかなか珍しいことだと思っています。今日はその裏側というか、どうやってプロジェクトを進められたのか、順を追って伺いたいと思います。

松澤様:私たち梓設計は、建物のデザインや外観を担う意匠設計から、構造設計、設備設計まで社内で完結させる独立系の総合設計事務所です。国内の空港設計を強みとして、スタジアムや医療施設など大型空間の設計を多数手掛けています。

これまでの設計業務に関わる膨大なデータがクラウドストレージに保存してあります。設計の際には過去の事例を参考にしつつ進める必要がありますが、あまりに膨大で多種多様なデータを紐解くのはとても骨が折れます。業務には過去の事例から学び精度を高めていくことが重要なので、蓄積したリソースを横断的に検索できないかと考えていたのです。

私と大阪が梓総合研究所(AIR)に出向していた時期に、AWSの生成AIサービス・Amazon Bedrockが提供開始され、私たちも生成AIを活用したチャットツールの開発に乗り出そうとしていました。ちょうどそのタイミングで、AWSの営業担当からIxAプログラムの紹介があったんです。

大阪様:ここ一年で生成AIを活用した技術開発は一気に加速しましたが、当時はまだこういう技術があればいいなという空想に近かったんです。しかし、この課題を生成AIで解決できれば、と参加を決めました。

越川:IxAプログラムは、AmazonやAWSがプロダクトなどを立ち上げる際に行われる開発プロセス”Working Backwards”を活用するものです。これを使ってサービス・プロダクト考案を進めます。

松澤様:はい。私たちが参加したIxAは、生成AIに焦点を当てたワークショップを2日間で行うというものでした。ワークショップ自体は無料で参加できます。終了後に、費用は別途かかりますが、引き続きIxAパートナーのNRIネットコムさんとPoCの開発まで進めることができると伺ったことも参加の決め手になりました。

越川:プログラム進行中、弊社は国内唯一のIxAパートナーとして(2025年12月時点)、オブザーバーの立場で参加します。IxA は、Think Bigをテーマに掲げ、大きな視点から企業課題に取り組み、アイデアを膨らませる機会でもあるので、私たちはあくまでも「見守る」という立ち位置でした。技術面やコストについて相談を受けた時のみ、最小限の助言をしました。

実際に参加してみて、いかがでしたか?

大阪様:私はエンジニアとして技術的な興味から参加しました。当時まだ入社2年目で、会社としての課題を俯瞰的に見ることができていなかったのですが、松澤さんやチームリーダーから広い視野での社内ニーズの捉え方を学ぶことができました。また、私は、提案する時にじっくり考えるタイプなので、2日間のうちに急ピッチで最終形まで仕上げるという経験は今までにない新しい感覚で良い経験になりました。

IxAプログラム終了後は、PoCに向けて綿密に準備を。初めからPoCで新サービスを具現化させることを視野に?!

越川:IxAプログラム終了後、2か月程度、PoCを開始するための準備を行いました。この期間はほぼPoCの活動内容を詰めていく作業で、PoCを実施すること自体はスムーズに決定しましたよね。

松澤様:IxAに参加するのであれば、そこで出てくるアイデアを具現化したいと考えていたので、実は当初から、予算を取ってPoCまでつなげることは想定していたんですよ。ですからIxAでは、経営陣を説得し予算を承認してもらえるだけのアウトプットを作る必要がありました。2日間のワークショップでその成果を出すのはかなりタイトで、プレッシャーを感じながら取り組みました。しかしスピード感をもって実行できたことが、非常に良かったと思っています。

山田:そうしたIxA での成果をベースに、PoCの準備が始まり、そこからは弊社も本格的なサポートを開始しました。

越川:この準備期間にまず着手したのは、PoC のゴール設定です。PoCにおいてゴール設定は非常に重要です。PoCはプロダクトの実現性を確認する概念検証なので、本質的なゴール設定が鍵となります。そこで、梓設計様と弊社でそれぞれ議論を重ね、打ち合わせを経て、ゴール設定のブラッシュアップを行いました。

最終的に目指したのは、複数のデータソースを横断的に検索する生成AIツールの作成ですが、それを運用していくことも想定し、どのようなゴール設定が必要なのか、明確なイメージを共有することから始めました。

打合せを重ねてゴールも明確になり、契約の手続きなども済ませ、PoCが始まりましたね。

PoC開始。時には立ち止まりながら、短期間でさまざまな課題を解決

山田:準備期間を経て、いよいよ2カ月間のPoCが始まりました。IxAを経ていたことで要件定義が円滑に進みましたし、梓設計様の社内にも協力的なスタンスがうかがえ、ありがたかったです。

PoCでは、どのようなデータを活用するかなど、詳細を検討していきました。

松澤様:私たちが横断的に抽出したいデータソースにはOffice系の書類データだけではなく、CADソフトで作成した図面などのデータも大量に含まれていて、データ量は膨大で種類も様々なんです。でも、CADファイルの拡張子サポートされていなかったり、ギガ単位のファイルは分割する必要があったり、画像からテキストを抽出する際に、どのくらいの精度が出せるかなど、業界特有の課題がいろいろと出てきました。ほかにも図面データには秘匿情報も含まれており、どのデータをLLMに読み込ませるかという取捨選択のプロセスも非常に大変でした。

越川:そうした課題を浮き彫りにすることこそが、PoCの意義ですよね。それらの課題を、トライ&エラーで一つずつ解決していきました。

それにしても、今回設定した<複数のデータソースをシームレスに検索する>という目標は、1年前の生成AI技術の状況としては、なかなかチャレンジングでした。

大阪様:PoCの後半で、だんだんサービスが形になっていく中で、いったん立ち止まって検証したい部分があったり、想定していたデータソースを差し替えたいなどということが出てきました。その度にNRIネットコムさんは一緒に立ち止まって考えてくれて、弊社のニーズにも柔軟に対応してくださり、マネジメント力の高さを実感しました。

松澤様:越川さんの熱量が想像を超えていて(笑)。どんどんリードしてくださったおかげで何とか乗り切れました。限られた短期間でしたが、複数のデータソースをAWSのプラットフォームに接続できることを確認し、生成AIのチャットツールとして活用できることを検証できました。

越川:ありがとうございます。松澤様と大阪様の意思決定が早いので、合理的かつスピーディーに進めることができました。懸念事項を同じ目線で共有できたことも良かったですね。梓設計様のご協力もあって、PoCで良い結果が出せたのだと思います。

いよいよ本格開発。PoC終了後、生成AI技術の発展に伴いゴール設定を変更。より効果的なツール開発を目指す

越川:さて、現在はPoCも完了し、いよいよ本番実装に向けた開発を行っています。
PoCが完了したのが金曜日でしたが、翌週の月曜にはもう松澤様が役員へのプレゼンを実施されて…。

松澤様:はい。PoCで良い結果がだせたので、役員へのプレゼンもスムーズに進んだのだと思います。作成をサポートしてもらった説明資料も良かったのかと。

越川:一般的にはPoCでプロジェクトが終了してしまったり、本格開発までに長い空白期間ができることも多いのですが、本番実装の決定が早かったことには驚きました。

松澤様:実は、PoCの後で当初のゴールを変更しています。当初は資料の検索機能をゴールにしていたのですが、現在のゴールは「知りたい事柄について知識や実績のある社員を探す」です。

病院の設備について知りたいなら、設備についての資料が検索するより、その業務に関して実績を持つ社員や、同様の設備に関連する社員が見つかるほうが業務に生きると考えたからです。

この1年で生成AIツールがかなりのスピードで進化し、当初考えていた横断的な資料検索は、Notion AIを活用したり、設計支援AIサービスと社内のデータソースをAPI連携することで、すでに可能になっています。そういったツールやサービスが普及した今、自社開発をするのなら、社内の“人”にフォーカスした独自性のあるツールにするべきだろうと考えました。

弊社ではフリーアドレス制を導入していますが、固定席の頃のような社員同士の結びつきが生まれにくいという実感を持つ社員も少なくありません。人とつながるサービスの需要が社内にあったという経緯もあります。

大阪様:AIがこれだけの速度で発展している今、差別化できる独自のサービスを開発していくのは、正直、大変だなと思っています。現時点で独自性が高くても、翌年には一般化しているかもしれないので、常にブラッシュアップしていかなければなりません。弊社が目指しているAI×人の仕組みは、人をゴールにしていることでAIのハルシネーション(誤った情報を出力すること)をうまく回避できるのではないかと思っています。人につながった先で、また新たなソリューションが期待できる点もプラスになりそうです。

越川:弊社でも生成AIに対する取り組みは活発化しており、ナレッジを蓄積してきました。生成AIツールの活用だけでなく、フロントエンドからバックエンドまでワンストップでご支援が可能ですので、サポートが必要な際はお声がけください。


※1  IxA(Innovate X Action):Amazon流のサービス・プロダクト開発プロセスを体験していただき、アイデアの創出に加え、テストの実施やアイデアのブラッシュアップまでAWSが併走して支援するプログラムです。お客様を起点にしたサービス・プロダクト開発を行う、AmazonのWorking Backwardsというフレームワークを用いてプログラムを進行します。


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